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仕事と不妊治療の両立、なぜ難しい?“十組十色”の経験から見えてきたこと

女性が妊活する時期は、仕事が充実する時期と重なります。仕事と不妊治療の両立を体験した9割以上が「両立は難しい」と感じ、悩んだ末に「不妊退職」をするケースも。やむなく転職や退職している女性は、4割にのぼるのです。(NPO 法人 Fine 2017年「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」結果より)

なぜ仕事と妊活の両立は難しいのでしょうか。大手企業の若手有志のコミュニティ「ONE JAPAN」による意識調査「仕事と不妊治療の両立」に参加した4人の男女に、それぞれの体験談をうかがいました(以下、年齢や勤務先は取材当時のものです)。


女性の後姿

【ケース1】仕事と両立できず妊活を中断。再開したいけれど……
Aさん(女性・35歳、メーカー勤務)

 32歳で3歳年下の男性と結婚し、妊活を始めたAさん。1年経ってクリニックに通い始め、検査で特に二人に異常はないと分かりました。でも、もともと性交渉が少なく仕事で帰宅が遅いことも子どもを望むうえでの課題に感じられ、人工授精の段階から治療を始めることに決めました。しかし、通院と仕事を両立できず、2カ月で妊活を中断することになりました。治療を再開しなければ……。そう思いつつも、気持ちは揺れています。


会社からも病院からも理解されない

 いざ治療が始まると、卵子などの状態で治療日が急きょ決まります。直属の上司に「不妊治療で通院したいので、不在時でも仕事を代わってもらえるような体制をつくってもらえないか」と相談したのですが、対応してもらえませんでした。


 職場は年配の男性社員が多く、40人ほどいる部署で子育て中の女性は一人きり、という環境。相談した上司を含めて、妊活そのものへの知識がなかったのだと思います。結局、通院のめどがたたずに治療は中断することになりました。


 クリニックの看護師さんなどに、通院中何度も言われました。「仕事がある、とおっしゃいますけれど、本当に子どもが欲しかったら、治療を優先してください」と。


「子どもは欲しい、仕事も頑張りたい」という思いが、会社からも病院からも理解されにくいという現実はつらいです。「子どもか仕事か、どちらか選びなさい」と責められているようで……。男性はそんなこと、きっと言われないですよね。でも、私にとって仕事を辞める選択肢はありません。不妊治療にも、子どもの養育にもお金は必要なのです。

目覚まし時計

人生を豊かにする選択ができるように

 仕事の進め方を柔軟に変えられる職場環境になり、早朝・夜間診療などに対応してくださるクリニックが増えればいいなと強く思います。そして、妊活がたとえうまくいかなくても、それで子どもをもつことの可能性を閉じるのではなく、特別養子縁組などの選択肢も早い時期に選択できるようになればいいですよね。


 子どもをもつことについて、「仕事との両立は、まずは個人が調整を頑張る」ということが当然という雰囲気があります。妊活の壁はいろんな意味で厚く、社会の仕組みがもう少し整えば、と思います。


 妊活を通して、自分の人生やこれからのあり方を見つめ直しているから、治療を再開することもこんなに悩むのでしょうね。でも、自分の人生を巻き戻すことはできないし、子どものことも仕事のことも、自分の人生を豊かにする選択ができればと思っています。

モノクロの女性

【ケース2】不妊治療を休んで1年半。次の選択肢が見えない
Bさん(男性・35歳、会社員)

 Bさん夫婦は、自然妊娠したものの流産し、「妊娠の可能性が上がるなら」と不妊治療をスタート。7回の体外受精・顕微授精にトライしたものの、妊娠には至っていません。治療を休んで1年半、夫としていま、思うことは……。


かかる時間とお金。でも報われるとも限らない

 結婚したのは私が32歳、妻は31歳の時です。広告業界で夫婦ともに仕事が忙しく、帰宅が終電間際の日はざらにあります。


 一度自然に妊娠して流産してしまったので、通いやすさも考え、勤務先と同じ沿線にあるクリニックを選んで行きました。検査をしたところ、私の精子の数が基準値ギリギリ、妻は卵巣年齢の目安となるホルモンの数値が年齢の平均より少し低いという結果。大きな問題は見つかりませんでした。


 ただ、結果が出なかったので、通院回数が減ることや違う治療法にも期待して遠めのクリニックへ転院したところ、通院の日は朝いちの受付をするために妻は早く家を出て、7時台から順番待ちをしました。

クリニックの待合席

 前のクリニックと合わせて、3年間で7回の体外受精・顕微授精をしました。採卵できなかったことが2回、受精しなかったことが2回、着床しなかったのが3回。治療費の総額は約300万円で、毎年、東京都の不妊治療の助成金を申請しました。


 治療の結果がダメだったときって、大学受験で失敗した浪人生のような感じでしょうか。必死で勉強したのに不合格で、また1年間勉強しなくてはいけない。辛い1年が、妻にとっては1カ月ごとにやって来る。しかも受験と違って、いつ自分たちが望んだ結果が出るかわからない。彼女の頑張りといったら……それが報われないので辛(つら)いんですよね。

 1年半ほど前から、いったん治療を休んでいる状態です。


 妻は、「受精卵が育たないのは私に原因があるから。あなたを父親にしてあげられなくてごめんね。あなたはまだ若いからチャンスはある。離婚してもいい」と言ったんです。


 ビックリしました。もちろん、僕は離婚なんて考えたこともない。妻は自分のせいだと感じていたようですが、これは二人の問題。僕がもっと早くプロポーズして結婚していれば、状況は変わっていたかもしれません。


夫婦ふたりの人生にはどんな可能性が?

 子どもができないいま、家の購入など具体的な人生設計が立てられない。今まで「子どもがいない人生」を考えたことがなかったんです。今はその事実を受け入れないといけない辛さがあります。


 じゃあ治療を再開するかというと、「ここまでやっても結果が出ないのだから」と躊躇しますし、一方で治療をやめるのは子どもを諦めることにも思えて……。出口の見えないトンネルの中にいるようで、これからの選択肢が見えないんですよね。子どもを授かることが、こんなにも奇跡的なことだと思っていませんでした。


 いま、一番望むのは「妻に笑ってほしい」。不妊治療をしていた時間も、いまも、人生の一部。二人でどう明るく過ごせるか、考えてみたい。僕たちにはどんな可能性があるか、妻に示していくのも、夫としてこうありたいという希望なのかなと思っています。


女性の後姿

【ケース3】不妊治療中、仕事にフルコミットできないことが辛い
Cさん(女性・38歳、会社員)

 結婚と同時に35歳から妊活をスタートしたCさん。体外受精に踏み切ったのは、タイミング法にプレッシャーを感じたことが大きかったといいます。現在は「期待しすぎずに淡々と」治療をしていますが、仕事でチャンスをあきらめなくてはいけないジレンマも感じているといいます。


治療は期待しすぎず、淡々と

 体外受精に進むことを決めたら、タイミング法のプレッシャーから解放されて、すごく気が楽になりました。治療は、やるべき作業を淡々とこなす感覚ですね。治療について悩んで乗り越えたから、腹が据わりました。ただ、結果については、意識的に期待しないようにしています。


仕事も妊娠のチャンスも待ったなし

 今の部署ではフレックス勤務ができるので、仕事と治療の両立ができています。実際に治療を始めたら、フレックスでなかったら難しいと思いました。通院で仕事に充てる時間が減るので、その分、集中して仕事をこなしています。また、代わりのきかない仕事のスケジュール調整には神経を使います。採卵日は直前に決まるので、もし突然休んだら周りに迷惑をかけてしまいます。先々の治療予定を確認しながら、なんとかやっている感じです。


 辛いのは、これまで仕事でフルコミットできていたことが、「妊娠するかも?」と思うとできなくなったこと。新プロジェクトを「やりたい!」と思っても手をあげることができず、でも結局まだ授かっていないので「こんなことならやります!って言えばよかった」と思ってしまうことも……。


会議中の様子

 仕事のチャンスも、妊娠の可能性の低下も待ってくれない。もし仕事でチャンスをつかんだとしても、すぐに妊娠して周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。先が見えない状況、しかもそれがいつまで続くのかわからない。そうしたジレンマにフラストレーションを感じて、それでまた落ち込んでしまう……。年齢的なリミットがあるから、「今は治療を優先する時期」と頭ではわかっているんです。でも、心がついていかない。


男性にも、妊活について知ろうとしてほしい

 企業では、不妊治療の実際について、特に男性に理解をしてほしいと思います。年齢に限らず、すぐできる人もいればそうでない人もいること、治療にかかる時間や費用について、想像するだけでもいい。まず、そこから始めてほしいですね。


 人によっては、いまだに「今、妊娠されると困る」と言う人もいるでしょう。一方で「それを配慮して仕事を減らす」というのも違うと思っていて、自分でもモヤモヤします。とにかく、働き方のフレキシビリティ(柔軟性)を上げていくことが重要だと思います。


ベンチで話している夫婦

【ケース4】妊活について相談や情報交換できる場があれば
Dさん(男性・30代、会社員)

 結婚してまもなく、妻に婦人科系の病気が見つかり、妊活について夫婦で向き合うことになったDさん。不妊治療を始めましたが、仕事と通院で時間の調整が必要ななか、「ゴールの見えない治療は精神的にきつかった」といいます。


時間と身体面でかかる負荷、妻を見るに忍びない

 最初に行ったクリニックは、妻の職場から比較的近く、仕事をしながらでも通いやすいと思いました。ただ、次から次に検査をするなど、治療が「流れ作業」的な雰囲気が気になりました。


 極めつけは、待ち時間が毎回約3時間だったこと。妻は仕事を半日休むことになってしまうし、僕は仕事柄時間を調整しやすいのですが、これが続くと思うと耐えられませんでした。クリニックの雰囲気や費用の問題もあって信頼感を持てないと感じ、転院しました。


 タイミング法を続け、排卵誘発剤の注射を打つ必要がありましたが妻はそれが辛いようで、僕は申し訳なく感じました。

薄暗い森

社内に不妊治療をする人の「駆け込み寺」を

 5、6回試みたところで、治療を次のステップに進めるかどうか、考え始めました。人工授精となると、通院などで妻の負担が増えるし、治療のゴールが見えない漠然とした不安も感じていました。ちょうどそのころ、僕の3カ月間の海外赴任が決まったのを機に、治療はいったんやめることに。ところが、海外赴任中に妻が遊びに来たタイミングでできたようで、しばらくしてから「妊娠した」と連絡がありました。「治療をやめると授かることがある」と聞いてはいたけれど、まさか自分がそうなるなんて想像していませんでした。今振り返ると、治療のストレスが大きかったのかな、とも思います。


 メンタル面では、不妊や治療の辛さは経験したことがない人にはわからないこともあるので、会社の中で、部署や肩書きを超えた縦横斜めの環境で相談できる「駆け込み寺」的な場所があるといいと思います。社内に限らず、相談したい、または話がしたいと感じた時にアクセスできる場があると、より多くの情報や体験に触れることができそうです。


【データ】働く女性の「不妊治療退職」が増加

 日本で不妊に悩んだことのあるカップルは5.5組に1組といわれています。体外受精・顕微授精により出生した児は2019年には全国で約60,000人と、その年の出生児の約14人に1人を占めています(日本産科婦人科学会雑誌第73巻第9号「令和2年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告(2019年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および2021年7月における登録施設名)」より)。タイミング法や人工授精を経て生まれた子どもや、妊娠・出産にはいたっていない妊活カップルがいることも加味すると、不妊や不妊治療は身近なものだということがわかります。


 しかし、経験した多くの女性が、仕事と不妊治療の両立の難しさを感じています。不妊当事者を支援するNPO法人Fine(ファイン)が2017年に実施したアンケート(回答者5,526人)では、仕事と不妊治療を並行して行っていた経験のある人の約96%が「両立は困難」と答えています。

出典:NPO法人Fine(https://j-fine.jp)「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」より
出典:NPO法人Fine(https://j-fine.jp)「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」より

 その理由として、「頻繁かつ突然な休みが必要」「あらかじめ通院スケジュールを立てることが難しい」などが挙げられています。治療は女性の生理周期に基づいて行われるため、急に休みをとったり業務を代わってもらったりせざるをえなくなります。


 回答者の4割近くが、2年~5年ほど、不妊治療に取り組んでいます。働きながらの不妊治療は、体力的にも心理的にも、とてもこたえるものです。さらに、仕事と不妊治療との両立を理由に働き方を変えた人は4割以上。その半数が「退職」を選択しており、Fineでは職場における不妊や不妊治療に対する理解不足から「プレ・マタニティハラスメント」が起こっているケースがある、と指摘しています。


 「周囲に迷惑をかけるのが心苦しい」という後ろめたさや、「治療のために仕事で重要な役割を担えない」というキャリアへの心残り、職場で治療を公表することの難しさ、不安、焦り……。アンケートの結果から、「職場における不妊や不妊治療に対する理解」がキーワードになっていることがわかってきました。


※この記事は朝日新聞社が運営しているウェブメディア「telling,」の掲載記事を再編集しました。

PROFILE

高井 紀子(たかい・のりこ)

北海道生まれ。女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。妊活や不妊治療、高齢者住宅などの取材が多く、生命誕生前から人生の最終章まで幅広く興味を持つ。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。趣味は月を見ること、温泉めぐり、ボルダリングなど。健康マスター(ベーシック)。NPO法人Fine http://j-fine.jp/

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