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シオリーヌさん(左)と、つくしさん(画像は全て提供写真)
シオリーヌさん(左)と、つくしさん(画像は全て提供写真)

妊娠は“共同プロジェクト” 話し合える関係性が支えになる

助産師の資格を持つ性教育YouTuber(ユーチューバー)として、SNSでの発信や講演活動を行っているシオリーヌこと大貫詩織さん。2020年に看護師のつくしさんと結婚し、夫婦で妊娠に向け取り組む姿もオープンに発信してきました。実際に不妊治療を経験した当事者として感じたこと、その思いを経て若い世代に伝えたいメッセージを、シオリーヌさんとつくしさんの二人に聞きました。


ヘルスチェックで驚きの結果が 後悔しない選択肢を話し合った

――性教育YouTuberとして、性の話を明るくわかりやすく伝えています。活動を続ける中で、反響は変わってきましたか。


シオリーヌ:
YouTubeでの動画発信を始めた3年ほど前は、女性が顔を出してあっけらかんと性の話をしていることに「すごいですね」と驚かれることが多かったです。でも、最近は「性教育って大切だよね」という見方でメディアでの発信も増えてきて、受け入れられる雰囲気になってきたと感じています。「親子でも話していきたいです」「パートナーとも性の話ができるようになりたい」といったコメントも多くいただくようになりました。

一方で、意識的に情報を取ろうと動く方と、そうでない方の差は広がっていると感じています。 基本的な生理の仕組み、妊娠の仕組みを知る機会がなかなかないという現状もあるようです。私からはそうした体の仕組みのほか、自分のライフプランに応じて、避妊や妊娠をするタイミングだったらどういう行動が必要になってくるのか、どういう選択が考えられるのか、といった内容をお話することが多いです。本来であれば、どんな地域のどの学校に通う子どもたちの元にも、当たり前に情報を届けられるようにしなければいけないはず。そこがまだ課題に感じています。


――2020年に夫婦となったお二人は、妊娠に向け不妊治療に取り組む様子をYouTubeで赤裸々に発信していますね。


シオリーヌ:
付き合う前から「私が30歳になるくらいまでには子どもを授かりたい」という話をしていました。私が5つ年上というのもあって、そのライフプランがつくしにとって重くなるようであれば付き合わない方がいいかもしれない、とは話していました。

つくし:
僕はその思いを聞いて、結婚当初から「いつから妊活を始めるといいだろうか」と逆算していました。 詩織と妊活の話を進めていくなかでブライダルチェック(※)という基本的検査があることを教えてもらい、そこで初めて知りました。検査はしておくべきだと思って、詩織が29歳のときに二人でクリニックに行ったのが、妊活の始まりですね。

(※)妊娠や分娩に影響のある疾患や感染症の有無などを調べるヘルスチェックのこと

つくしさん(左)とシオリーヌさん(右)

――助産師として働いていたシオリーヌさんと、看護師の資格を持つつくしさん。妊娠・出産に関しての知識は多いと思いますが、当事者になることで改めて感じたことはありましたか。


シオリーヌ:
事前に知識だけでもあった分、妊娠の計画は立てやすかったです。保育園探しのことを考えたらこのあたりで妊娠しておきたいとか、この辺で婦人科のヘルスチェックに行きたいから(当時、服用していた)ピルは何カ月前にはやめておこうとか。
でも、助産師経験があるとはいっても、不妊治療のクリニックに勤務した経験がなく、不妊治療の具体的な知識は不足していました。そして、自分自身が「多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群(※)」と診断されたときには、まったく予想しておらず本当にびっくりしました。

(※)一つの卵巣の中にたくさんの嚢胞(卵胞)ができてしまい、どれも大きくならず排卵が遅れてしまったり排卵しなかったりする疾患。定期的な排卵が起こらないため、無月経や月経不順になったりし、不妊の原因にもなる。


つくし:
ヘルスチェックの検査中はYouTube動画の撮影をしていたのですが、詩織が驚いた様子を見て、先生が「どうしますか。撮影をこのまま続けますか」と気を遣ってくださるほどでした。

シオリーヌ:
もちろん疾患は知っていましたし、生殖年齢の女性のなかでそんなに珍しいものではないということも理解していました。でも、私はピルを飲んでいたこともあり、自覚症状になり得るような生理不順を体感したことがなかったんです。知識として知っていることと、当事者になることとは違うと、身をもって感じましたね。


――その診断を受けて、どんな不妊治療に進んでいきましたか。


シオリーヌ:
私は排卵を起こすためにお手伝いが必要な体だということが分かりました。
不規則なタイミングで起こる排卵を予測しながらタイミング法(※)を試みるよりは、先生にも「排卵のチェックを病院でしながら進めていった方がスムーズでは?」と教えてもらいましたし、二人で「早く病院にかかり始めて、適切なサポートを受けながら進めたほうが自分たちの心身も楽だろうね」といった話をして、病院に通い始めました。

(※)妊娠しやすい排卵日を予測して、その日に合わせて性交渉を持つ方法


通院を始め、まずは基礎的な検査をたくさんしました。多嚢胞性卵巣症候群のほかに妊娠の障害になりそうな原因がないかを調べる必要があります。ホルモンの検査や、子宮や卵管にそもそもの問題がないか。つくしの精液検査もしました。結果、ほかに障害になりそうな原因は見つからなかったので、ホルモン剤の注射や排卵を誘発するための飲み薬で卵子を育てる試みから始めました。

つくし:
どうにかいい具合に卵胞が育って、排卵が起きるかもしれない、という時点に受診して、タイミング法を何周期か試してみることもできるし、タイミング法と併せて人工授精を行うこともできる。先生からその二択を提示してもらったんです。二人で検討して、少しでも確率を高めて早く終わらせたいということで、タイミング法に加えて人工授精をするという選択にしました。

シオリーヌ:
もしその後、卵が全然育たないということになれば、「あのとき人工授精までやっておけばよかった」と後悔する、そう意見が一致したんです。
その人工授精で、本当に幸運なことに、授かることができました。

シオリーヌさん(左)とつくしさん(右)

二人で取り組む共通認識がコミュニケーションに

――夫婦で常に話し合って答えを出している様子が伝わってきます。そんな中でも落ち込んだり、二人の間がぎくしゃくしたり、ということはあったのでしょうか。


シオリーヌ:
気が重くなることはたくさんありました。卵管造影検査やホルモン注射など自分にとっては痛いと感じることをしながら、朝早く病院に行って3時間も待った挙句に「卵が育っていないので生理を起こしましょう」と言われると、やっぱり空しい気持ちにもなりました。こんなに早く来て待っていたのに、注射痛かったのに、お金も結構払っているのになぁ、って。

つくし:
自分としては、できることがないんですよ。痛い思いをしてもらうしかなくて、それに対する申し訳なさはすごくありました。
でも、二人の間でぎくしゃくしたことは、一度もなかったですね。

シオリーヌ:
つくしは、毎回のように一緒に病院に来てくれていたので、その時々で感じた思いを全部つくしに話せていた。それはすごく大きかったと思います。
卵管造影検査のYouTube動画なんてつくしが撮影してくれていますから(笑)。痛がっている様子を見て、「よく頑張ったね、ありがとうね」と言ってもらえるので、ネガティブな気持ちを引きずらずに過ごせていたのかなと感じています。

つくし:
状況を全部共有していたので、今回の受診で何をするのか、結果はどうだったのかの理解度が同じだった。それが、ぎくしゃくはしないでいられた一つの理由かもしれないです。
僕自身がしたことは些細なことかもしれませんが、精子を取るための採精室での体験というのは、かなり特殊なものでしたね。

検査のときにスタッフの方に「精子を取ってきてください」と部屋に案内されるのですが、「自分がマスターベーションをしているタイミングを周りに把握されている」「精子を出すことを期待されている」という緊張感はすごかった。外で人が待っていてくれる中、絶対に出さなければいけないという恥ずかしさもあって、やっぱり自分としてはちょっとつらかったです。

さらに人工授精の日は、病院の採精室がコロナ禍で閉鎖されていたので、自宅で採って行かなくちゃいけなかったんです。人工授精の前に何日間か禁欲して、その日の朝に取ってきてくださいと指示があって。

シオリーヌ:
当日の朝は、気が付いたらつくしと採精カップが消えていました(笑)。

それこそタイミング法も、病院から「今日セックスをして下さい」と指示されるわけです。私とつくしは帰りの車で「行けそうですか、つくしさん。今日、どうですか」みたいな話を笑いながらあっけらかんと相談できていたけれど、日頃から性的同意という言語的なコミュニケーションをまったくしてこなかったカップルには、ハードルが高いことだろうなと思います。


――つくしさんは、通院には毎回一緒に行かれていたとおっしゃいました。どんな考えを持って行動していたのでしょう。


つくし:
子どもを授かるためにアクションを起こそうという話をしていたときから、「妊活は共同プロジェクトだ」という認識を持っていました。
自分はどうしたって妊娠することはできない。それならば、検査でつらい思いをして耐えてきてくれたときに声をかけたり、検査結果を一緒に聞いて今後のことを一緒に考えたり、できることはやっていこうと思っていました。

詩織から、「つくしの当事者意識はどこからくるの?」と聞かれて話をしたことがあったのですが、一番大事なことは、妊娠する可能性のある行為をする前に「妊活は二人で取り組むこと」という共通認識を持っていたことかなと思いますね。

シオリーヌさん(左)とつくしさん(右)

自分が体験した“一つのケース”を発信していきたい

――シオリーヌさんは、不妊治療の過程やその時々の思いを細やかに発信してきました。当事者として発信する上で、大切にしていることはありますか。


シオリーヌ:
自分が経験した治療の中で自分が思ったことは、「あくまでも一つのケースである」ということ。“不妊治療を経験した人”として、何かを代表して意見するようなことはしないと決めています。

妊活の過程を発信しようと思ったのは、不妊治療のクリニックに通う経験をして、驚いたことがいっぱいあったからです。治療している方の多さ、痛みを伴うような治療もあること、かかる時間や経済的な負担など。素直にお伝えすることで、治療を頑張っている人に対して社会はどんなサポートができるのか、考えるきっかけにできたらなという思いがありました。

でも、不妊治療は人によって本当に様々で、ベースに共通のしんどい部分はあっても、その具合にはかなりのグラデーションがあります。周りの妊娠がわかったとき、自分の治療と比較して複雑な思いを抱える人もたくさんいる。私の妊娠に対して、「そんなにすぐ終わっていいですね」「正直、おめでとうと思えません」という声もありました。私の発信で傷つく人がいるのなら、どんな内容を発信すれば適切なのかと迷うこともありました。
でも、自分が経験したことの中には、「社会がこう変わってくれたら不妊治療をしている人たちがもっと楽になれるのでは」という思いがあった。実際に、私の動画を見て「同じ会社に不妊治療をしている人がいたら、率先して仕事を代わって引き受けようと思います」とコメントをくれた人もいました。
不妊治療にはいろんなケースがある、と知っていただくのも無駄ではない。あくまでも一つのサンプルとして、知ってもらいたいことをお伝えしていきたいと思っています。


――不妊治療を経験したからこそ、これから妊娠を目指す可能性のある方へ伝えたいことはありますか。


シオリーヌ:
基本的な妊娠の仕組み、体の仕組みは早く知っておくに越したことはありません。妊孕(にんよう)性(妊娠する能力)も年齢によって変化していくので自分のライフプランを立てる上で、情報を持っておくべきだと思います。
もちろん、産む・産まないにかかわらず、自分に与えられている選択肢をよく理解した上で、自分で選ぶことがすごく大切だと思います。もし婦人科疾患を抱えていたら、「いつかは子どもを授かりたい」と数年後の話だと思っていても先延ばしにせずに、すぐにでも動き出さないといけない状況かもしれません。定期的に婦人科検診を受け、自分の状況を把握した上で、先のプランを考えていってほしいですね。

つくし:
将来的に子育てを希望するカップルには、婦人科や泌尿器科などでのヘルスチェックの存在がもっと知られてほしいなと感じています。不妊の原因は男性側にある場合もある。妊活をすると決めたら、パートナーと一緒に受けに行くことが大切だと思います。

クリニックにはいつもほぼ女性しかいなくて、一緒にパートナーと通院する仲間が増えたらいいなとずっと思っていました。自分のように時間の融通が利く人ばかりではないと思うけれど、妊娠をするというのは、妊娠をする人だけのテーマじゃない。二人いて初めて成立することだと思うので、仕事が忙しいなかでも同行できる日があれば同行したらいいと思うし、一緒に行けないのなら、その日の受診で何があったかを聞いて、分からないことは調べてみたらいい。自分が初めて知ることは、妊娠する側にとっても初めて知ることが多いはずなので、受け身にならず同じ理解度で一緒にプロジェクトを進めていけたら、円滑な関係でいられるんじゃないかなと思います。

つくしさん(左)とシオリーヌさん(右)

シオリーヌ:
そして、妊娠に向けて取り組むことになったときには、一つひとつの出来事に対してパートナーと話し合っていけるスキルが欠かせないと思います。私も、一人だったらもっと追い詰められていたと思うけれど、二人でやってきたから乗り越えられた部分が大きい。
自分の意見を伝え、相手の意見を受け取る。大事なことを話し合える関係性を、いざ取り組むという前から築いておいてほしいですよね。

つくし:
僕らの場合は、詩織が「性教育を発信している人間」で、付き合う前から僕はそれを見ていた側だった。だから性の話を大切な話としてできる基盤がある、という特殊なケースなのかもしれないけれど。

シオリーヌ:
もともと性の話を全然していなかったカップルだったら、妊娠に向けて取り組むとなっても、いきなり「今日からオープンに話してみよう」となるのは難しいんじゃないかな。
だからこそ、思春期の段階で届けられる性教育で、体に対して知識を持つことや、パートナーとコミュニケーションをとることが決して特別なことではなく大事なことなんだよと、早くから伝えていかなければいけないなと思います。

大人になった当事者たちだけに、頑張って話してくださいとプレッシャーをかけるだけではなく、性の話がもっと世の中にメディアなどで広がり、普通に勉強したり話し合えるテーマになっていくといい。大事な話だよ、というメッセージやコンテンツを増やす努力を社会の側でしていくことが欠かせないと思っています。


シオリーヌさん(左)と、つくしさん
シオリーヌさん(左)と、つくしさん

PROFILE

シオリーヌさん

1991年、神奈川県生まれ。性教育YouTuber。総合病院産婦人科病棟で助産師として勤務したのち、2017年から性教育に関する発信活動をはじめ、19年2月からYouTubeで動画投稿を開始。チャンネル登録者数は16.6万人(22年1月現在)。学校での性教育に関する講演や、性の知識を学べるイベントの講師を務める。


つくしさん

1997年、北海道生まれ。看護師の資格を持ち、医療系スタートアップ勤務のかたわら、シオリーヌさんが配信する動画にも撮影や一緒に出演するなど協力している。つくしさんが改姓する形で、二人は2020年春に結婚。


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