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「大事なのはパートナーと心が通じていること」 矢沢心が不妊治療に臨む人へ伝えたい思い

元格闘家の魔裟斗さんとのおしどり夫婦として知られる俳優の矢沢心さんは、排卵がされにくくなる「多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群」でした。治療を始めてから1人目のお子さんを授かるまでの4年間で、7度の体外受精および顕微授精を経験しました。妊娠反応は出ても赤ちゃんが育っていない「枯死卵(こしらん)」と診断されたり、妊娠3カ月目での流産を経験したりと、さまざまな困難を乗り越えて2012年、31歳のときに長女を出産。14年と19年には次女と長男が家族に加わりました。不妊治療の悩みを聞いたり、自身の体験を伝えたりする活動をおこなっている矢沢さんに、どうやって治療と向き合って乗り越えてきたのかを尋ねてみました。


自分に合う病院を探して、2回転院

――不妊治療を経験した女性たちは「学校の勉強と違って、努力した分の成果が約束されていないことがつらい」「どこまで頑張ったらいいかわからない」といった悩みを持っています。矢沢さんは「もう治療をやめたい」と思った瞬間はなかったのですか。

「私は夫との間に赤ちゃんがほしいと強く思っていたので『産むまで頑張ろう』というつもりでした。だから、途中で治療をやめたいと思ったことは一度もありません。私の場合は不妊治療を始めてから食事や睡眠などの生活習慣も改めましたし、ストレスをためないように気をつけるようにもなって、体の状態が良くなっていくのが自分でもわかりました。病院も、自分に合うところを求めて途中で2回転院しました。努力しているうちに治療の結果も少しずつですが良くなっていったので、ステップアップしている感覚がありました。受け身ではなく、治療をしながら『自分で前に進めている』と思えたから、つらいことがあっても頑張れたのだと思います」

――病院はどうやって選んだのですか。

「私が最終的に選んだ病院には、夫が先生を紹介してくれたことがきっかけでめぐり合いました。過去の実績なども調べて、治療にしっかりとした結果がともなっていることもわかったので、ここにかけてみよう、という気持ちになったんです。それまでは体質的に麻酔が合わないこともあってつらかったのですが、新しい病院では採卵のときに麻酔を使わないため、治療がずっと楽になりました。もちろん、病院の方針と自分の考え方が合うかどうかも大切です。これから病院を選ぶなら、診察に入る前に夫婦で足を運んで先生の説明を聞いてみて、納得してから決めることをお勧めします」


流産後、日記をつけるのを辞めた理由

――流産などのつらい経験もされていますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

「流産を経験した後で、それまでつけていた日記をやめました。ストレスの発散になると思って毎日、寝る前に治療のことなどについて書いていたんですが、だんだんそれが、『毎日やらなければいけない』という義務のようになっていました。うまくいかなかった経験を思い出して気分が落ち込んだり、日記を書かないと眠れなくて、就寝時間が遅くなったりすることもあった。日記をやめてみたら、そうした重みから解放されて、『こんなにすっきり眠れるのか』と驚いたんです。過ぎたことをあれこれ振り返るのはやめて、『今日も病院にいけた』とか、自分ができたことについて『頑張った』と、自分をほめてあげるようにしたら、気持ちがずっと楽になりました」


無理になぐさめてくれなくていい

――男性の声としては、不妊治療をなかなか「自分ごと」として受け止められず、流産した場合にどんな言葉をかけていいのかわからないという思いがあります。こういうことは、どうすれば防げるのでしょう。

「私が流産したと伝えた時は、夫はカフェに連れていってくれて、2人でお茶を飲みました。夫も私も言葉が出てこなくてほとんど無言でしたが、ただ一緒に隣にいてくれるだけで十分でした。そんな状態の時に、色んな言葉をかけられても耳に入ってこなかったでしょうし、一人でいるのもつらい。無理になぐさめる言葉をかけようとするからおかしくなってしまうわけで、それまでの不妊治療の過程でパートナーときちんと向き合っていれば、適切な言葉も出てくるでしょうし、あえて言葉をかけなくても伝わると思うんです。そうやって、2人が同じ方向を向いて心と心が通じていることが、女性の側の心の安定にとってもすごく大事だと思います」


治療がうまくいかなくても、あまり夫には報告しなかった

――大きな心の支えになっていた夫の魔裟斗さんとは、不妊治療について普段から詳しくお話しされていたんですか。

「何でも話していたかというと決してそうではなくて、私は、治療がうまくいかなかったことや不満に思ったことは、あまり夫に報告しませんでした。ダメだったことばかり話しても『そうか』としか言いようがないだろうし、なぐさめの言葉をかけてもらいたいわけではなかった。それに、自分が傷つくことって、相手も傷つくじゃないですか。私は治療が良い方向に向かっているときに、積極的に話すようにしていましたね」


「不安だから一緒についてきて」と言ってみる

――女性から見た場合、夫をうまく不妊治療に巻き込んでいくには、どうしたらいいんでしょうか。

「これから不妊治療を始めるという方なら、最初に病院に行くときから2人のお休みの日を見計らって、『不安だから一緒についてきて』と言って、パートナーを連れていったらいいと思います。一緒にドキドキしながら病院に行って同じスタート地点に立てば、男性の当事者意識もぐっと高まる。そのときに、女性と一緒に男性の精子の検査もしてもらうこともお勧めです。精子の検査というのはあとで持っていくこともできるんですが、病院で採取すればフレッシュな状態で検査ができます。何より、2人で一緒に不妊治療の道を歩むんだ、という自覚が持てると思います」


もし子どもを授からなかったら……を考えたこともあった

――矢沢さんは、治療をしても子どもができなかったら、と考えたことはなかったのですか。

「あります。でも、そのときに私が思ったのは、仮に子どもを授からなかったとしても、そのぶん、夫婦2人で過ごす時間が増えるわけですし、子育てにかけるはずだったお金も自由になって、旅行にいけたり、おいしいものを食べたりできる。それならそれでいいと思っていました。大好きな人と一緒に過ごしていけるわけですからね」

――最初から「産まない」「子どもを持たない」という人生を選ばれる方もたくさんいらっしゃいます。

「そうした選択をされるのは、自分の未来設計ができているということで、素晴らしいなと思います。むしろ思うのは、どんな選択をされるにしても、あまり時間を長くかけて悩み続けているよりも、スパっと決断してしまったほうが良いということです。仮に1年間考え続けていても何も前に進まないわけですし、その分、気持ちを切り替えて有意義な時間を過ごしたほうがいい。自分の人生は自分のものなんですから、最終的に自分を大事にしてあげることが一番だと思います」


写真:遠崎智宏
※この記事は朝日新聞社が運営しているウェブメディア「telling,」の掲載記事を再編集しました。

PROFILE

矢沢心(やざわ・しん)さん

1981年生まれ、東京都出身。俳優・タレント。食育のインストラクター資格を持つ。2007年に結婚した夫の魔裟斗さんは、元K-1世界チャンピオン。二人の4年にわたる不妊治療の歩みをつづった本を共著で上梓(じょうし)するなど、幅広く活動している。


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